第81章 そして誰もいなくなった
「リーバー班長、これは何処に仕舞えばいいですか?」
「ああ。一ヵ所に集めてたんじゃ見つかる危険性も高くなるからな。それは東側の棚の奥の、床下倉庫に頼む」
「わかりました」
リーバーに指示を仰ぎ、部屋の隅の棚奥へと進む。
「この部屋は随分昔は実験室として使われてたんだよ…当時此処で実験中に人が死んだらしくてさぁ…」
「それ以来此処で実験すると必ず事故が起こるようになって…団員は誰も寄り付かなくなったんだなぁ…」
「げ。なんさその話…」
離れた位置から聞こえてくるのは、ラビを驚かせようとしているのか。
重々しい声色で怪談話をしているタップとジョニーの声。
(全く。本当、二人共からかうの好きなんだから…)
南は零れそうになる溜息を呑み込みつつ、奥底の棚へ歩みを進めた。
電灯は通路から差し込む光しかない為か、大きな棚で遮られた影で一気に視界は暗くなる。
(えっと、床下倉庫…此処ら辺かな…)
段ボールを置いて手探りで床下に触れて探す。
記憶が正しければ、棚の奥底の壁沿いにあったはず。
タイル状の凹凸が並ぶ床。
ぺたぺたと触れながら取っ手を探していると、不意にぺたりと南の手がそれに触れた。
床下倉庫の固い取っ手。
否、ひやりと柔らかい肌のようなもの。
「っ!?」
反射で手を引っ込める。
同時にその場を凝視すれば、暗い視界になんとなく映っているのは床のタイルのみ。
触れた柔らかい物的なものは、何も見当たらない。
(…気の所為?)
今触れたものはなんだったのか。
幻覚にしては、はっきりと掌に残る感触。
一瞬だったから定かではないが、触れた形は鼠や虫のような生き物ではなかった。
数本の、指のような感触。
「………」
それはまるで、人の手のような。