第81章 そして誰もいなくなった
「こーんな夜中まで仕事してんさ?相変わらず仕事中毒さなぁ、南達は」
「あ、あはは…それ程でも…」
「褒めてねぇし。で、なんさこの小び」
「別にっ?」
任務後だろうか。
頬には大きなガーゼ、手首には包帯。
そんな出で立ちで分厚い書物を幾つも脇に挟んで抱えたラビが、呆れ顔を科学班に向ける。
しかしその隻眼が手元の小瓶に移るや否や、ジョニーが素早い身のこなしで彼の手からそれを奪い取った。
「よ、ようラビ。お前こそ、こんな遅くまで読書か?」
「南、ジョニーっ」
「わっ」
「はいっス」
慌てて前に出たのは班長であるリーバー。
マービンに腕を引かれて、南の体は背後に押し込まれた。
同様にジョニーも愛想笑いを浮かべるリーバー達の背後へと隠れる。
しっかりその手に髑髏マークの小瓶を持って。
「ジジイが明日までに、これ全部記録しろって」
「そうか、任務明けなんだから無理するなよ」
「ん」
(まずい、よりによってラビに見つかるとは…)
(頼む。このまま立ち去ってくれよ…!)
ははは、と愛想よく笑うリーバーに、ぽんと書物を軽く叩くラビはいつもの様子。
ラビはエクソシストでありながら、ブックマンJr.という別の顔も持つ教団では特異な人物。
性格は社交的で柔軟性も持つ、年相応の明るい青年。
それでいてブックマンの肩書きを持つ程に記憶力と知識もあり、同時に強い好奇心や探究心も持っている。
だからこそ何より厄介な人物だということを、科学班一同は心得ていた。
今此処で、彼に関心を持たれてはならない。
「じゃ、俺達は仕事の続きがあるから」
「よし、皆行くぞ」
「またな、ラビ」
ははは、と笑顔で手を振り背を向ける。
皆それぞれに大きな荷物を抱えて、暗い廊下の先を目指した。
「ちょい待ち」
否。
それを止めたのは、明るく砕けたラビの声。
「何か面白いことしてんだろ?」
恐る恐る振り返ったリーバー達の目に映ったもの。
(ああ…ッ)
(やっぱし!)
(バレた…!)
それは明らかに好奇心を抱いた顔で、にっこりと笑うラビの姿だった。