第80章 再生の道へ
リナリーの周りを取り囲んで、彼女の淹れてくれたコーヒーを味わいながら笑い合う。
やれやれと溜息をつくリーバーをリナリーが宥めれば、自分のマグカップをそれぞれ手にしながら彼らも笑っていた。
タップ。
マービン。
ハスキン。
他科学班の面々。
「………」
しかし当たり前にあったはずの彼らの姿は、其処にはない。
(……違う。同じじゃ、ない)
似ているようで違う。
変わっていないようで、確かに変わってしまった職場の光景に、南は動きを止めた。
彼らはいない。
あの日、掠れて淡く消えていった夢の残像と同じに、彼らは現実からも姿を消した。
どんなに捜したって、どんなに呼んだって、どんなに求めたって、彼らはもう此処にはいないのだ。
「………」
「南?…どしたんさ。まさか本気で傷痛む?」
リナリーの元へ向かうリーバーを追おうとしない。
そんな南を、ラビが背を折り曲げて覗き込む。
「ラビ…ううん。大丈夫」
(私は。…大丈夫)
きゅっとラビの目に見えない位置で、拳を握りしめる。
こんな些細なことで躓いていては駄目だ。
これからはこれが"日常"の風景となるのだから。
自分に言い聞かせるように胸の内で唱えて、ラビに笑いかける。
ほんの少しだけ力なく見える笑みに、ラビは目を止めた。
本部襲撃事件の騒動が一段落つき、再び戻ってきたこの地。
同じ職場の仲間を一度に失った彼女が、再び此処に立つ時、何を思うのか。
「…南───」
「あれ、なんですかまた余計なこと言って泣かせてんですかラビ」
「これ以上泣かせんな面倒臭ぇだろ」
「おぅぶッ!?」
つい手が伸びる。
小さな肩にラビの手が触れようとした時、どこからともなく突き出してきた二つの拳がドスッ!と彼の鳩尾にめり込んだ。
「げほッ…~ッなんもしてねぇだろ!?南関係となるとすぐ手出す癖やめろよお前ら!」
殴られた鳩尾を押さえながらラビが涙目で睨む先には、涼しい顔した未成年男子エクソシストが二人。
アレンと神田。