第80章 再生の道へ
「あ、なんかその反応酷いさはんちょ!ただの見学さ、研究見学!」
「はいはい。またちょっかい掛けに来たのか。暇だな」
「私は科学班の皆に、コーヒーでも淹れようと思って」
「えっ?リナリーのコーヒーっ?」
「まじで!?」
「はいはーい!俺も飲みたい!」
リナリーの口から"コーヒー"の名が出るだけで、途端に科学班総動員で上がる挙手。
「ふふん、僕の可愛い愛すべき天使だからね。リナリーが淹れるコーヒーは絶ぴ…って聞いてる君達?」
「はいはい、わかってますリナリーが天使だってことは」
「可愛いっすもんねー室長の妹っすもんねー」
「リナリー、俺ブラックー」
「俺はミルク入りがいいな」
「わかったから、皆ちゃんと順番守って並んでね。ミランダ、手伝ってもらっていい?」
「え、ええ!勿論!」
「私もやろう」
わらわらとリナリーに集る科学班の男性職員に、ミランダとマリもリナリーの加勢へと向かう。
そんな一連の様子を見守りながら、ふと南は口元を綻ばせた。
(なんだ……何も変わってないな)
数ヶ月ぶりの職場につい身構えてしまっていたが、研究室では本部襲撃事件以前と変わらない景色が広がっていた。
くたくたの白衣姿でリナリーの給仕に群がりながら、上司であるコムイを時として邪険に扱う職員達。
少し特殊な、それでいて明るい職場。
「リーバー班長と南さんは?」
「ああ、貰う。南も飲むだろ」
給仕セットを用意しながら、少し遠目から声を掛けてくる。
そんなリナリーに笑顔を向けたリーバーが、隣に立つ南へと問いかける。
何気ない光景だった。
「は───…」
なのに"はい"と頷きかけた顔は何故か止まってしまった。
当たり前に見ていた光景。
当たり前に傍にあった日常。
"やっぱりリナリーのコーヒーは最高だな"
"これがあるから、仕事頑張れるって思えるもんなー"
"そうでなくても頑張って欲しいんだがな、俺は"
"そう言わないで、リーバー班長"
それはあの日、あの灼熱の炎に包まれて。
朧気に夢に見た光景と、同じだった。