第80章 再生の道へ
「ラビの言うことは真に受けなくていいですからね。南さんは僕の気持ちを汲んでくれたんでしょう?」
「え?っと…それは…」
「まーたそうやって!オイシイ所持っていこうとすんのやめてくんね?アレン」
「なんですかオイシイ所って。僕は本音を言っただけです。ラビの方こそ汚らわしい」
「汚らわしいッ!?」
「前々から思ってたけど、ラビって名前が可愛いだけの獣ですよね。すぐストライクするし」
「ケダモノって言い方!なんか悪意あるんだけど!」
「別に他意はないですよ。本音を言っただけです」
「こ…此処、病室だから。静かにしようね?ラビ…と、アレンも」
淡々と声は荒げていないが、明らかにアレンがラビを煽っているのは見てわかる。
白毛と赤毛が言い合う様を傍観しつつ、南は苦笑混じりに呼びかけた。
このままエスカレートしてしまえば、額に青筋を浮かべた婦長が乗り込んで来てしまうかもしれない。
それだけはごめんこうむりたい。
しかしそれでも、アレンはラビに対して不満顔を止めなかった。
ラビから一歩出遅れて、退院した南に花束片手に祝いに訪れたのは、このアレンだった。
ラビと同じに退院準備を手伝ってくれたことはあり難い。
しかしそこで喧嘩をしろとは言っていない。
「大体、南さんの折角の退院の日に花束の一つや二つ、持ってこないってどういうことですか」
「ぐ…そ、それは毎日見舞いの時に花は持ってきてたし。アレンよか数で勝ってんさっ」
「何言ってんですか、量より質ですよ。大事なのは」
「毎日飯を大量摂取してる奴が言う言葉じゃねぇさソレ」
「まぁまぁ。気持ちが大事なんだと思うよ?アレンが持ってきてくれた花束も、ラビが毎日花瓶に活けてくれていた花も、私には同じに嬉しいものだったし。だから言い合いしないで」
声のトーンは落ち着いたものの、続く言い合いに堪らず南は二人の間に割り込んだ。
二人を落ち着かせるようにそれぞれの胸に手を当てて、笑いかける。
「ありがとう、二人共」
「……南さんがそう言うなら」
「…はぁ…わかったさ」
そんな南の心からの笑みに、渋々と二人はやっと尖らせていた口から不満の声を消した。