第80章 再生の道へ
「んで、荷物はこれで全部さ?」
「それなら、後は紙袋にまとめたものが───」
「じゃあこれは僕が運びますね」
「あ」
そこに、と南が指差した先には、目当ての紙袋を手に立つ白髪の少年が一人。
にっこりと爽やかな笑顔を浮かべて紙袋と花束を抱える少年に、南は慌てて歩み寄った。
「私持つよ」
「駄目ですよ、ラビの言う通り南さんは今朝退院したばかりなんですし」
「でも…じゃあ花束くらいなら、軽いし───」
「いいえ。視界を花束で阻めて、転んでもしたらどうするんですか。僕が運びますから、代わりに南さんは手を」
「え?…ぅ、うん」
「ってオイ」
器用に紙袋と花束を片手でまとめると、はい、と笑顔で少年が差し出したのは右手。
布手袋を常に身に着けているその手が、あまりにも流れるような自然な動作でつい片手を乗せれば、チョップするように上から阻んできたのはラビの手だった。
「何するんですか」
「それはこっちの台詞さ。何当たり前に南の手握ろうとしてるんさ、アレン」
「なんですか、南さんの手助けしちゃいけないんですか」
「別に手を握るくらいどうってことな」
「くないさ!そーやって異性に対して危機感甘い所、南の悪い所だかんなっ!」
「う。ご、ごめんなさい」
笑顔で紳士のように手を差し出してきたのは、未成年ながら大人顔負けな女性への細やかな態度を貫く少年、アレン。
彼だからこそ疚しい気持ちなどないことはわかっていた。
故の受け身な行為だったが、ラビはどうにも気に喰わなかったらしい。
危機感が足りないと叱られれば、以前それでラビとぎこちない関係になったばかりに強くは否定できない。
「此処は病室ですよ。静かにして下さい、ラビ」
罰が悪そうに謝る南を庇うように、ラビとの間に割って入ったのはアレンだった。