第80章 再生の道へ
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「よし」
「忘れ物はねぇさ?」
「うん。大丈夫」
柔らかな朝日が窓から差し込む、真っ白な部屋。
綺麗に整えられたベッドのシーツの上で、ぱちんと全てのものを詰め込んだ荷物のベルトを閉める。
しっかりと中身が出ないことを確認していれば、隣から伸びた手がひょいと軽々しくそれを持ち上げた。
「あ」
「オレが運ぶさ」
「…もう大丈夫だよ?松葉杖もなくて歩けるし、包帯だって全部取れたんだから」
見上げれば、へらりと屈託ない見慣れた笑みを浮かべる赤毛の青年、ラビ。
その顔に向かって、ほらと両手を南は開いて見せた。
しっかりと両手に隙間なく巻かれていた包帯の姿は、もうない。
火傷で多少肌の色は異なり跡を残しているが、よくよく見なければわからない程些細なもの。
もう彼女の外見で目立つ怪我の跡などない。
そんな南の姿に、ラビの笑みが柔く緩んだ。
「いーの。南は退院したてなんだから、まだ甘えてろって」
「というか、すっごい甘々に介護受けてるような気分…子供じゃないんだから、そこまで甘やかさなくても。荷物くらい持てるよ」
「これはオレの仕事だからいーの」
手を伸ばしてみても、ひょいと届かない高さに持ち上げられては反抗できない。
仕方なしに両腕を下げる南に、ラビは荷物を肩に掛け直した。
「それに南だって同じことしてくれただろ」
「同じこと?」
「オレが方舟での一件後に入院してた時。散々甘やかしてくれたじゃんか」
「…そうだったっけ」
首を傾げる南の反応からして、あの甘やかし方は自然の行為だったのだろう。
入院していたラビに、毎日見舞いに来てくれていた。
欲しい物があればすぐに用意してくれたし、我儘も嫌な顔せず聞いてくれた。
だから今度は自分の番だ、と。
元より南の為になるならばと、今日という日に真っ先に病室を訪れたのは、この部屋ではすっかり顔馴染みのラビだった。
今日は南の退院の日。
婦長からその許可が出たのは、入院から数ヶ月後のことだった。