第16章 夕日に映る影
「こちらから、椎名殿が見えるのですが。わかりますか?」
『そ…が、アレ…、…ぐれ、て』
「…さっぱりですね」
夕日が薄らと向こう側を照らす。
もうそろそろ陽が落ちる、その前に合流しねぇと。
そんなことを考えながら南に手を振っていると、隣にいたアレンが手を振り返した。
「どうですか?ラビ殿」
「あー、南は気付いてねぇけど、アレンがこっち見てるから…」
よかった。
そう言おうとして、思わず口が止まった。
「…?」
こっちに向かって、ゆっくりと手を振り返す動作。
明らかに、はっきりとした動作なのに。
それはアレンなんかじゃなかった。
黒い影。
ぼーっと人の形を保ったものが南のすぐ隣で、ゆらゆらとこっちに手を振っている。
思わず息を呑んだ。
「ウォーカー殿がいるんですか?…見たところ、人影は一つだけのようですが」
不思議そうにこっちを見てくるトマの言葉に、急に掌に冷や汗が浮かぶ。
トマに見えていない?
じゃあ、あの南の隣に立っているあれは…なんだ。
「ウォーカー殿にも無線を繋げて、連絡してみましょうか」
「………」
「…ラビ殿?」
謎の黒い影から目を離せないでいると、ゆらゆらと揺れていた手が不意に止まる。
そのままゆっくり下がる黒い腕は、隣にいた南に伸びて───
「っ!トマ、アレン捜して館を出ろ!」
「えっ?」
ガシャンッ!
咄嗟に腰のホルダーから取り出し様に巨大化させた鉄槌で、窓ガラスを割る。
そのまま鉄槌の柄に足をかけると、トマの返事も待たずに。
「"伸"!」
一直線に隣の館内へと突っ込んだ。