第16章 夕日に映る影
ガシャアンッ!
一気に隣の館内まで伸びる鉄槌。
その勢いで突っ込む体は、そのまま窓ガラスを突き破った。
「南!」
ガラスの破片が散った床に、足を滑らせて着地する。
目的の人物を呼べばすぐに見つかった。
「なっ、な、何…っ!?」
オレを見て軽くパニくってる南が。
「吃驚した…!何、ラビ…?どっから飛んできた───」
南の言葉を聞き終わる前に、その腕を掴んで自分の背中に隠す。
鉄槌を構えて辺りを見渡せば、赤い夕陽に照らされた廊下に割れたガラスの破片と、廃れて軋んだ床が映っているだけ。
その他には何も見当たらない。
「ら、ラビ…?」
南以外の気配らしきものも、何も感じない。
困惑した声が後ろから届いて、振り返ってざっと南の体を見渡してみる。
どこにも異変らしきものはない。
「怪我してねぇさ?」
「怪我?してないけど…どうしたの、何かあった?」
「…変なもの見たりは?音でも、なんでもいい」
「音?…ううん…あ、トマさんから連絡来て。いまいち電波が悪くて、何を言ってるのかわからなくて…」
おどおどと話す南は、いつも通りでおかしな言動は見当たらない。
…あれは目の錯覚だったのか。
「…アレンは?」
「それが、はぐれちゃって。アレンの方向音痴さを痛感したよ。目を離しちゃ駄目だね」
あはは、と軽く苦笑する南は本当にいつも通りで。
「…縄付けてでも一緒にいろよ…心配させんな」
安心感がどっときて、思わずその小さな肩にぽすりと額を乗せていた。
触れて実感する。
南が此処にいることを。
「ラビ…?」
「……───!」
か細い南の声がすぐ耳元で聞こえて、その距離の近さにはっと気付いた。
咄嗟に顔を離して一歩下がる。
無駄に触れないように、ここんとこ気を付けてたのに。
触れたら思い出してしまう。
あの夜のことを。
「………」
だけどつい距離を取って見えたのは、夕日に照らされて表情暗く陰る南の顔で。
その顔を目に映した時、胸の奥がズキリと痛んだ気がした。