第16章 夕日に映る影
「そうだっマザーグース!トマさん、ありがとうございますっ」
南が心底トマに感謝するように笑顔を見せる。
オレは思わずアレンと顔を見合わせた。
「マザーグースって?」
「なんさアレン、知らねぇの?イギリス人だろ」
「はぁ…。民謡か何かですか?教団に来る前はずっと、師匠と修行の日々でしたから…」
ぽりぽりと頭を掻いて苦笑するアレンに、少しばかり同情する。
そういやクロス元帥とエクソシストとして修行しながら、借金とギャンブルの日々を送ってたって言ってたっけ…。
「マザーグースは、主にイギリス発祥の童謡さ」
「しかし歌詞は多少異なるようですが…」
耳を澄ますトマに習って、子供達のはしゃぐ歌声を聞く。
だれが駒鳥 死ぬのを見たの♪
それはわたし と 蝿が言った♪
息絶えるその瞬間を♪
わたしの無数の目が 見届けた♪
確かに。
本来の歌詞に比べると、幾分気味の悪い歌詞だった。
「あれは昔から村に伝わる民謡でね。恐らくその歌を元に、伝いに伝わるうち独自の歌詞へと変わったのでしょう」
村長の言葉に、成程納得。
外部からの情報を受け付けない村なら、オリジナルのものができてもおかしくない。
「へぇ…でもこうして見ると、微笑ましいですね」
窓の外に映る、和気藹々と遊ぶ子供達。
つられてアレンの顔が綻ぶ。
「…なんか、あの遊び知ってるような…」
窓ガラスに手を当てて、ぽつりと呟いたのは南だった。
「だからもういいって。南はそういう意味深なこと口にすんの、今後タブーな」
「僕もラビに賛成です。冗談なら教団でいくらでも付き合いますから」
「だから、ふざけてなんかないって…あ。二人共、怖いの?」
「「まさか」」
とにかくそれ禁止な。
怖いとかそういうの関係なしに、それ禁止な!
いやマジで、お願いします。