第80章 再生の道へ
「なんで車椅子押してんさ、そんな手で。まだ無理すんなって言っただろ」
「無理してないよ、これくらい。スプーンだってもう持てるんだから」
「介助用の、な。ほら貸して」
包帯の巻かれた手で車椅子のグリップを握る南に、忽ち眉を寄せたラビが溜息混じりに場所を代わる。
「…良いリハビリになってたのに…」
「そういうことは専門家が決めるんです。つーかなんで此処にいんの?もう外出許可出たんさ?」
「あー………うん」
「…出てねぇだろソレ」
「…そういうラビだって。許可は来週下りるって言ってなかったっけ」
「オレはもうこの通りぴんぴん動けるからいーの。ほんと他人より自分の心配しろよな…ったく」
まだ固定の松葉杖がないと歩けない程の重傷者なのに。
仕事中毒者な時点で無理をする性格ではあったけど、こういう時くらいは大人しくしていて欲しい。
切実にそんな溜息をつきながら、ラビはぽふりと南の頭に手を置いた。
(…ま。此処で会えたのは嬉しいけどさ)
こそこそと病室に隠れて顔を出すのではなく、こうして普通に話せることは単純に嬉しい。
ぽんぽんと頭を撫でれば、きょとりと見上げた南と目が合う。
そうして視線が重なると、へにゃりと笑われた。
(うわ)
思わず顔が熱くなる。
つい視線を逸らしてしまったけれど、ラビの手は変わらず南の頭に触れたまま。
そんなラビをにこにこと見上げる南の顔は、変わらず柔らかいまま。
「「「「………」」」」
そんな二人をじーっと見る視線が複数。
(南とラビってこんな仲だったっけ…)
(はわー…なんか見てるとこっちが照れそうっスねアレ)
(一端にリア充気取りか。阿呆め)
(そう言ってやるな、ブックマン)
ジョニーにチャオジーにブックマンにマリ。
どうにもその目には男女の甘酸っぱい光景に見えたらしい。
が、当の二人はそんな視線に気付いていない。