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科学班の恋【D.Gray-man】

第80章 再生の道へ



「私が押すよ」

「えっ?いいよ、南だって怪我───」

「丁度いいリハビリになるし。押させて」



南がジョニーの車椅子の後ろに回り、グリップを片手で握る。



「でも片手だから、舵取りはお願いね。私は前進運動のみ」



慌てて振り返る顔ににっこりと笑ってみせれば、そこで譲らない南の性格を知っていたからか。
ジョニーは苦笑混じりに息をついただけだった。

キィキィと微かな車輪の音を立てながら進む。
ナースの目を盗み病棟を離れることは思いの他簡単で、やがて広い見慣れた教団の廊下に辿り着くと一気に人影は姿を消した。
以前は沢山の人で賑わっていた広く薄暗い廊下。
しかし一度に沢山の団員を失った教団の廊下は、車椅子の車輪の音が耳につく程静かなものだった。

シンとした空気に、自然とお互いの間に沈黙が生まれる。
普段なら気にも止めない、空気のような無言の空間。
なのに南は少しばかり、その沈黙を居心地悪く感じていた。

その原因はわかっていた。
ジョニーと顔を合わせた際には、話すべきだと決めていたことが南にはあったからだ。



「…ジョニー」

「んー?」

「……あのね…ジョニーに…伝えていなかったことが、あって」



それは失った同期であり友であった、タップのこと。
南とジョニーにとってかけがえのない存在。
その彼が命を落とすきっかけとなった、自分の過ち。

ジョニーにはしっかり伝えていないと。
そして謝らないと。
彼がそんなことを求めているか、と考えれば首を縦には振れない。
でもこのまま何もなかったようには振舞えない。

南と、タップと、ジョニーのことだからこそ。
この口で伝えないといけないこと。

きゅ、と南は唇を噛み締める。



「…タップの、こと」

「………」



一呼吸置いてそっと名を吐き出せば、前を向いたままのジョニーの顔は、今度は振り返らなかった。

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