第80章 再生の道へ
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「ふぅ…」
トイレから出てコツリ、コツリと、松葉杖を付きながら歩く。
脇に挟んではいるものの、南の扱っている松葉杖はよく見かける二本一組のものとは形が異なっていた。
使っている杖は一本だけ。
杖の先は安定し易いように、四足に分かれて支えている多脚型。
杖の上端には弾力性のある横木が取り付けられていて、肘をそこに乗せてマジックバンドで固定することで、体重を掛けて体を支えることができる。
その横木の先端には縦に握りが取り付けてあり、手首や肘に障害がある人が本来は使う、肘支持型杖というものだった。
南がその杖を使用する理由は手首や肘の障害ではなく、両手を隙間なくぐるぐると巻かれた包帯にあった。
指先の感覚がなくなる程の重度の熱傷。
その手で暫くは物を掴んだり扱うことはできない。
今もまだ食事の際は、介助用のスプーンを使っている身。
故に松葉杖のように取っ手を握ってバランスを安定させるものではなく、腕をバンドで固定して体重を支える肘支持型杖を医療班から与えられたのだ。
移動は比較的し易い。
両手に負担もない。
しかし。
「…痛…」
体重の掛け所を間違えば、完治していない腹部が僅かに痛む。
自由な利き手で腹部にそうっと触れて、南は溜息をついた。
本部襲撃からまだ一ヶ月も経っていないが、寝たきり状態からこうして多少動けるようにはなった。
けれどまだ外出許可は出ていない。
(ジョニー…元気してるかな)
男性病棟と女性病棟は別れているため、会いに行くには距離がある。
向かう途中でナースに見つかれば、病室に連れ戻されてしまうだろう。
科学班の研究員は大なり小なり、AKUMAによって全員負傷してしまった。
既に退院した研究員仲間は、南の見舞いに来てくれたから会うことはできた。
顔を見て言葉を交える。
それだけでほっとする。
しかし未だ入院中の同期であるジョニーには会えていない。
そして───
(……リーバー班長も、大丈夫なのかな…)
上司である、彼もまた。