第80章 再生の道へ
「クロス元帥だってお見舞いに来てたのに」
「えっ?そうなんスか?」
彼の名前を出せば意外だったのか、目を丸くしたリーバーの顔が向く。
確かにコムイ自身も、南のベッドの傍であの大柄な赤毛の元帥の姿を見かけた時は驚いた。
驚いたのは見舞いに来ていたから、だけではなく。
その手に高級酒の瓶を持っていたから尚更だったのだが。
「見舞いの品だって、南くんにお酒飲ませようとしてたからさ。慌ててその場にいたナース達に止められてたよ」
「はぁ?何やってんだあの人は…っ」
はぁあ、と大きく溜息をつきながら眉間に皺寄せて、ぐしゃりと頭の跳ねた髪を掻く。
どう見ても部下を思い後悔している顔。
そんな反応を見せるなら、何故行ってやらないのか。
「ジョニーは周りに同じ科学班の入院仲間がいるけど、南くんは一人なんだよ?会いに行ってあげないと」
「……それは…わかってるんスけど…」
行きたい。
けれど行けない。
コムイの正論に言葉を濁しながら、リーバーは顔を曇らせた。
似たような思考に悩まされたことはある。
船上で、南がノアに屈辱的な行為を受けた時もそうだった。
けれど今回はどんな顔をして会えばいいのか、なんと声をかけてやればいいのか。
そういう悩みがリーバーの足を止めていたのではなかった。
彼女の体に負った怪我の酷さは知っていた。
この目でしかと見たのだから。
だからこそ、恐らく重度の怪我人のような姿をしているのだろう。
初めてジョニーの見舞いに行った時のことを思い出す。
もし彼と同じように、体のあちこちに白い布を巻き付けて、ベッドから下りられない姿になんてなっていたら。
(…直視できる自信がない、なんて)
早く助けに行かなかったことを悔やむことくらい、承知している。
南の負傷した姿に、後悔することは目に見えてわかっている。
けれどその思いとは別次元の感情の問題。
酷く傷付いてしまった彼女を、ただただ真正面から見るのが怖いのだ。
(……情けねぇ)
なんて弱い心なのかと、何度目になるかわからない悪態をリーバーは突いた。