第80章 再生の道へ
「あ。そうそう、入院中の皆のお見舞いには行ったかい?」
「見舞いっスか?」
小船を見送り、さぁと踵を返して上の階へと戻る中。
ふと思い出したように掛けてくるコムイの言葉に、リーバーは軽く笑い返した。
「ええ、行きましたよ。科学班の方はジョニー以外は皆割と早く退院できそうで、安心しました」
「ああ、うん。みたいだね。だけど…ジョニーと南くんは重症だったみたいだから。まだ安心とまではいかないかなぁ…」
その口から何気なく漏れた名に、ふとリーバーの口が止まる。
その僅かな反応をコムイは見逃さなかった。
(やっぱり)
予想はしていた。
だから見逃さなかっただけなのだが。
「リーバーくん、南くんのお見舞い行ってないでしょ」
眼鏡の奥の切れ目でじとっと見ながら問う。
否、問うてはいない。
確信していたことだから。
「あんなに頻繁に男性病棟には見舞いに行くのに、なんで南くんの所には行ってやらないのさー」
あーあ、と溜息を溢しながらコムイは大きく肩を下げた。
その顔には呆れにも似た色が混じっている。
自分の部下でもある、科学班で唯一の女性研究員。
彼女の元に見舞いに訪れれば、体中真っ白な布に巻かれた姿で、それでも笑みを浮かべて迎えてくれた。
けれどそれはいつもよく見せてくれていた、彼女の笑顔とは違った。
少しだけ影の残る力のない笑み。
当たり前と言えば当たり前だろう。
沢山の科学班の仲間を一度に失い、そしてその仲間の命が散るところを彼女は目の当たりにしたのだから。
そんな覇気のない彼女を見ていたからこその言葉だった。
自分では駄目だ。
職場で一番彼女の身近にいた、直属の上司であるリーバーでないと。