第80章 再生の道へ
「じゃあな」
ルベリエに軽く手だけひらりと振ってみせ、その手で愛ゴーレムのぷにぷにとしたボディを掴む。
そうしてクロスはコムイの手に、ぽちょんと金色の丸いボディを落とした。
コムイが受け取ったのは左手。
右手は真っ白な三角巾で首から吊るし、腕を支えている。
その右腕にはギプス。
纏う匂いはほんのりと微かな消毒液。
「え。ティムは連れて行かないんですか?」
「ティムが"行かない"とさ。荷物整理、頑張れよ」
その消毒液はコムイの体からだけでなく、隣に立つリーバーからも漂っているものだった。
額を覆った真っ白なガーゼが強く印象付けてくる。
しかしそんな二人とは相反し、背中を向けて静かに地下水路の小船に乗り込むクロスの体には、どこにも印象強い白は見当たらない。
あんなに激しい戦闘をしておいて、怪我を負っていない姿はやはり元帥と言うところか。
背を向けたまま、ひらりと片手を振る。
そんな去り行くクロスにコムイの手に乗ったティムだけが、ニッと尖った歯を見せて笑い返した。
「さて…僕らも忙しいよ、リーバーくん」
「ウィッス」
"色"のノア、ルル=ベル。
そして彼女が引き連れてきた大漁のAKUMAによる黒の教団本部襲撃事件。
教団本部が直接内部から襲われたことは初めてのことで、まだ事件から日が浅い中、中央庁と教団の幹部が召集され今後の体制について連日評議が行われていた。
今回のクロスの中央庁への出張もその一つとされている。
今回の襲撃事件により科学班は約半数の研究員を失い、その他の探索班や警護班、通信班などの被害も大きく。
負傷者や死者への対応に追われつつも、本部内は暫く機能を失ったかのように静かだった。