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科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



「ほら…病は気から…って言う、でしょ?」



風邪みたいなものだと思えばいいよ。
大丈夫だと思えばきっと大丈夫。

それにほら、死んだら今季限定のお菓子も食べられなくなるんだよ。
タップ楽しみにしてたでしょ。

だから生きなくちゃ。



「…は、は…」



カタ、とタップの剥き出しの歯が重なり合って鳴る。
まるで笑ってるような、そんな微かな動きに見えた。



「じゃア……それ…でっかイ…貸し…だなァ…」



…ああ。

聞こえてる。
ちゃんと。
応えてくれてる。



「…うん」



生きようとしてくれている。

そんなタップの姿に、つい笑みが漏れた。
顔は涙でボロボロだろうから、散々な笑顔だっただろうけど。
それでも、顔の緩みは止まりそうになかった。



「お返しは、なんにも要らないよ…生きていてくれれば…それでいい」



それが私にとって一番のお返しだよ、タップ。



「オレも…ッ手伝うよ…ちゃんとタップの体治してみせるから…!」



両手で握ったタップの手。
その私の手の上に重なる、ジョニーの細くて薄い手。

うん、うん。

嗚咽混じりにオレも、と何度も呟くジョニーに私も何度も頷いて返した。

これでも教団本部に配属された科学者なんだから。
大丈夫。
きっと治してみせる。



「…ジョニ……みなみ…」



再度呼ばれる。
濁ってるけど、掠れているけど。
確かなタップのその声で。



「…あり…ガとう…」



それは普段の彼からはあまり聞かない言葉だった。
小さな小さな声で、精一杯絞り出すように伝えられた言葉。

そうして。

カタ、と少しだけ剥き出しの歯を合わせ鳴らして、彼は笑った。










ザラリとした感触。










「───え」










それが砂粒のような感触だと悟る前に、握っていたタップの手は形を消した。










「………タップ…?」










パシャン、と何処かで何かを打つ音がする。

真っ青なビニールシートに広がる真っ白な砂粒。



一瞬だった。

その形が崩れゆく様を見守ることもなく。










瞳を瞬くような一瞬で

タップの体は其処から消えた。






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