第79章 無題Ⅱ
アジア任務から教団に帰還して、ラビ達の帰りを待つ間。
その間に、皆の色々な情報を耳にした。
スーマン・ダークの咎落ち。
大量のAKUMAによるクロス部隊襲撃。
アレンのアジア支部でのAKUMAとの攻防。
"咎落ち"とは、本来イノセンス不適合者がイノセンスに体を取り込まれて死に至るもの。
エクソシストであるスーマン・ダークが起こすような症状じゃない。
それでも彼のイノセンスが暴走したのは、一人のノアの手によるものだった。
ノアに突き付けられた"死"への恐怖から逃れようと、無理矢理イノセンスへの意志を曲げたが故にスーマンを襲った悲劇。
そして彼の"心"は死んだ。
人の心を弄ぶようにスーマンを死へと追いやったノアと対峙したのは、そのスーマンを助けようとしたアレン。
中国任務を当てたられたクロス部隊。
アジア支部のすぐ傍で起こった惨劇。
それはアレンの"死"だった。
対峙したノアの手により、心臓を貫かれて絶命する程の怪我を負ったアレン。
アジア支部の番人であるフォーが発見した時には、彼は既に事切れていたという。
外部からの損傷はない。
心臓だけ、体内から破壊するように穴を開けられていた。
まるで手品のような信じ難い負傷。
でもそれが可能なノアを私は一人知っている。
"俺ね、この世の万物を好きに"選択"できるんだよ。こうして、この小さな心臓にだけ触れたいって思えば…胸に穴なんか開けなくたって、直接触れることができる"
覆い被さってくる褐色の大きな体。
服の上から、まるでホログラムのように布地と肌を貫通して私の心臓を握っていた手。
実態なんて見えていないけれど、あの心臓を直接撫でられる気持ちの悪い感覚は嫌という程覚えてる。
"生きたまま心臓を抜かれる感覚って、どんなもんなのかな?"
あの手は確かに、私の心臓を握り締めていた。