• テキストサイズ

科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



「兄…さん…?」

「!…リナリ…っ」



その人の姿勢が、一瞬崩れ去る。
はっとしたように振り返るコムイ室長の視線の先。
其処には薄い桃色のチャイナ服と短パン姿の、彼の妹の姿があった。

額にはこびり付いた鮮血の跡。
ショートになっても柔らかく美髪だったリナリーの髪は、こびり付いた血でパサパサに固まっていた。
頭だけじゃない。
その細くて華奢な、惜しみなく曝された手足にも赤い傷跡が無数に見えた。

…ラビと同じだ。
彼女はエクソシストだから。
きっと戦前で、AKUMAと戦ってくれたんだろう。



「…リンク監査官に…教えてもらって…その…人……タップ、なの…?」



恐る恐る素足で歩み寄ってくるリナリーの目が、室長からタップへと移る。
驚きに満ちた顔で見開いた大きな目。
唇を噛み締めて、両手を胸の前で握りしめて。
まるでその現実に耐えようとしているかのような、そんな顔で。



「嘘……タップ…?」



両足首は真っ赤に染まって、十字傷のような裂けた傷を負っていた。
それでも躓くこともなく、ひたりひたりと歩み寄るリナリーの裸の足。



「タップ…なんで…そんな、姿に…?ねぇ、なんで?」



問いかけてくるリナリーの声が、微かに震える。
その問いに答える者は一人もいなかった。



「なんで…ッ」



リナリーの声が一際大きく震える。
ぽろぽろと、その見開いた目から零れ落ちる大粒の真珠のような涙。

そう涙を溢れさせた顔で歩み寄るリナリーの遠く、後ろ。
其処に見知った姿を見た。
真っ黒な長髪を一つに束ねた、刀を手にした青年。

私の目も溢れた涙で滲んでいたから。
それが神田だと悟るには、少し時間がかかった。
そして神田だとわかった時、遠目にその目と合った気がした。

…あれ…あの手にしてる刀は、多分ただの日本刀だ。
神田のイノセンスである六幻はまだ修理を終えていないから。
ラビと同じで、イノセンスを持たない神田にAKUMAと戦う術なんてない。
だけどああして武器を手にしてるってことは…もしかして神田も戦ってたのかな。



「………」



目が合ったような気がしたのは、ほんの一瞬だけだった。
ふいと流れるように呆気なく、その目を逸らしたのは神田から。
そのまま背を向けて静かにその場から去っていく。

/ 1387ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp