第79章 無題Ⅱ
「…ごめ…タップ…ッ」
声が震える。
もう涙なんて枯れ尽くしたと思ってたのに。
どこにそんな水分が残っていたのか、後から後から途切れず溢れ落ちてきた。
「私が…っ言うこと、聞かなかったから…ッ」
ごめん
ごめんなさい、タップ
許して貰おうなんて思ってないけど
どんなに謝っても、もうこの体は元には戻らないんだから
「ごめ…なさ…ッ」
「……南…」
支えてくれているラビの手から離れて、目の前の体に縋り付いた。
痛い思いをさせないようにって、触れるのを躊躇してたけど。
縋らずにはいられなかった。
「タップ…も、怒らないから…お酒で馬鹿やったって…仕事中に…暴食したって……うるさく、言わないから…っ」
ああ、みっともない。
みっともなく、生に縋ってる。
そんなことしたってなんの意味もないことは、よくわかってるのに。
「沢山…寝て、いいから…っタップの仕事も全部、私が受け持つよ…体…元気なるまで…休んで…ッ」
途切れることなく落ちる涙が、タップの顔を濡らしていく。
冷たい骸骨に伝う熱い涙。
縋る手が弱々しくタップの体を掴む。
真っ黒に焦げた痛々しい皮膚に触れて。
それでもタップは一度も反応を示さなかった。
「だから…ッ」
こっちを見て、タップ
私を見て
何か言って
罵声でもなんでもいいから
じゃなきゃまるで…冷たい人形だ
生きてるかどうかも不安になる
「…逝かない、で」
嫌だ
逝かないで
まるでその足音がひたひたと忍び寄るのを、間近で聞いているようだった。
タップの体に無情に忍び寄ってくる確実な"死"。
あの夢の中で、光に包まれて消えていく皆の光景が脳裏に浮かぶ。
消えていく。
私を置いて。
手の届かない所へ行ってしまう。
「私の、傍に…いて…っ」
今度は私も守るから。
言うことだってちゃんと聞く。
逃げろって言われたら逃げる。
痛みだって耐えきってみせるよ。
だから…消えないで。
消えていかないで。
置いていかないで。
「タップ…ッ」