• テキストサイズ

科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



「医療班が手一杯みたいなので、私が君を運びます」



そうなんだ…。
そうだ、だってあんなに熱く大きな炎で研究所は燃やされてたんだ。
きっと負傷者も多い。

じゃあ…リナリーは、皆の所に行けたのかな…。



「………アリガトウ…」

「仕事です」



力の入らない体をリンクの背中に預けたまま、瞼にだけ力を込める。
ゆっくりと開く眼。
霞んで広がる視界。

見えたのは、すぐ傍で揺れるリンクの金色の三つ編みだった。
なんか…ティムの尻尾に似てるなぁ…。



「…リーバーさん達は…?」

「全員無事でした。人間の方は」



リンクは研究所にいただろうから、皆がどうなったのか知ってるのかもしれない。
傍の耳元に問いかければ、すぐにテキパキといつものリンクの聞き慣れた口調で返された。

……"人間の方は"?



「守化縷にされた方は助からないそうです」



…え……?



「既に何体か死んで砂になってます」



…砂って…待って、今…死んだって言った?
死んだって、あの骸骨にされた研究員の人達が?



「………」



そんな。



「……ッ」



わなわなと口元が震えて、その声を抑えることができなかった。

間に合わなかったんだ。
助けられなかった。



「う…く…ッ」



目元が一気に熱くなる。
ボロボロと両目から零れ落ちていく涙。

歯を喰い縛る。
なんとか持ち上げた左手を熱い目頭に押し付けた。

沢山の研究員の皆が、僕の目の前で骸骨の体にされていた。
目の前で体を作り替えられていたのに。
それを僕は助けられなかった。

南さんを守ることで精一杯で──違う。
その南さんにさえも、深手を負わせてしまった。

命は助かったんだから良いじゃないか、なんて思わない。
それだけ南さんの体と心に、痛みと恐怖を与えたのは確かだから。

助けられずにいた命があって、体と心に傷を負わせてしまった人がいる。



「っ…う…ぅッ」



僕はエクソシストなのに。
この手は人とAKUMAの魂を助ける為にある。

なのに───



「く…ッふ…っ」

「………」



言葉にならない。

くぐもった嗚咽を漏らし続ける僕に、リンクは静かに口を閉ざしたままだった。






/ 1387ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp