第79章 無題Ⅱ
✣
───コツ、
朧気に掠れた、浅い意識の中。
耳に届いたのは静かな足音だった。
一定の速度で僕の方に近付いてくる。
誰か来たのかな……もしかして、
「リナリ…?」
開いた口からは、か細い声しか通らなかった。
「僕のことは、いいから…早く…科学班の皆の…所へ…」
コツ、コツ、
目を開ける気力もないから、姿は見えない。
だけど確かに、足音は近付いてきてる。
…駄目だよ、リナリー。
僕のことはいいから、君は早く科学班の皆の所へ行かないと。
「君は…僕より…教団生活が長いから…きっと…」
…南さんやジョニーと同じ。
僕よりこの教団の人々と長い時を過ごしてきたから。
きっと彼らとの絆は深い。
科学班の皆、無事だったんだ。
リーバーさんの名前、コムイさん呼んでた。
それに…南さんの名前も。
無事だったんだ…南さん…よかった…。
ジョニーも無事だったのかな。
全員の安否はわからない。
だから早く、行ってあげて下さい。
リナリー。
「…だから…はやく…」
「彼女なら行かせましたよ」
僕の覚束ない声を遮ったのは、予想していたリナリーのものじゃなかった。
…あれ?
「…ダレ?」
「ハワード・リンクです」
ピクリとも動かない体は、足を投げ出して座り込んだま。
柱に預けた身は起こすことができない。
イノセンスの発動を解いてしまうと、もう体は限界で一歩も動かせなくなってしまった。
体中ギシギシと痛むけど、その痛みもどこか朧気。
「チンク…?」
「リンクです」
目を瞑ったまま問えば、腕を誰かに掴まれた。
そのまま引っ張られて、背中に背負わされるような感覚。
リンク?
リンクって……あのリンク?
…そっか…慌ててレベル4を追いかけて飛び出したから…リンク、研究所に置いてきてしまってた…。