第79章 無題Ⅱ
「5分経ったら、どう足掻いても医務室に連れてくからな。そこも異論は認めねぇから」
そう、きっぱりと有無言わさない口調で投げかけてくるラビの言葉。
なのに私を見下ろすその顔は、そんな口調とはまるで違っていた。
眉間に濃く皺を作って、眉を寄せている。
痛みに耐えているかのような顔。
これ…リーバー班長の、亡くなった団員達に向ける顔と似てる。
…きっとラビも私の体を心から心配してくれてるんだ。
顔を歪ませる程心配してくれてるのに、私の心を優先してくれた。
「…うん」
そう彼の気持ちを悟ると、異論なんて唱えられなかった。
「…ありがとう…」
力の入らない頭をラビの胸に凭れたまま、手だけは彼の腕を握り続けた。
何処で誰と戦ってきたのか。
その腕には切り傷や打撲痕が幾つも見える。
そんな状態でも尚、私のことを優先してくれている。
本当に私のヒーローみたいな人。
「………」
小さな声で届けた礼の言葉に、返事はなかった。
ただ。
足早に研究所の外へ向かうラビの体は、足場の悪い瓦礫の上を歩いているのに然程揺れていない。
壊れ物を運ぶかのように、優しく私の体を抱いてくれていた。