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科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



「私も…ラビも…生きてる、から。だから…こんなに苦しくて…嬉しいんだなぁ…」

「…南…」



噛み締めるように呟く。
するとじっとしていた腕の中の頭が動きを見せた。
腕を緩めれば持ち上がる頭に、視線を上げる。

重なる、目と目。



「嬉しいのに、苦しいなんて…変だね」



思わず力なく笑えば、ラビの眉間に皺が寄った。
怒りの感情を見せるような表情じゃなく、何かに耐えるような顔。
そんな彼の翡翠色の瞳からは、未だ止まることなく滑り落ちていく無数の涙。

…こんなに泣いてるラビの顔、初めて見たかも…。



「……ラビって、さ」



どうしたらその涙を止めてあげられるのか。
そう頭の中では考えているのに、何故か別の感情も湧き上がる。



「結構、泣き虫…だよね」



指先でその艶やかに濡れて光る目元に、そっと触れる。
視界に入り込んだ自分の指先は、真っ黒に焦げ付いていたけど、それでも拭うように触れた。

…指先の感覚、あんまりないなぁ…。



「泣いてる所…沢山見た訳じゃ、ないけど…泣きそうな所は、よく、見たこと…ある」

「…うっせ」



いつもは人の輪の中心にいて、場を明るくするムードメーカーな存在だけど、時々その輪から外れて一人きりでいる所を見たことがある。

例えば…あの時は、書庫室の人気のない奥底の棚と棚の間だった。

沢山の積み上げた本に囲まれながら、本棚に浅く腰掛けた格好で、膝に読みかけの本を開いたままじっと窓の外に目を向けていた。
その表情に"色"はなくて、感情の見えない顔で窓ガラスを打つ雨を見つめていた。

あの時のラビの姿は、普段の彼とはまるで違う別の誰かのようだった。

その場の空間だけが別に切り取られているかのように、私の知らない世界に浸っている。
簡単に触れちゃいけない空気に思えて、あの時は声をかけられなかった。

ただ…感情は見えないのに。
"色"のない表情をしていたのに。

なんだか…切なく見えて。

しとしとと窓ガラスを優しく打つ雨が、外からの淡い光でラビの顔を照らして映す。
鏡のように、雨跡がその"色"のない顔に映る姿はまるで──



「…綺麗」



切なくて、綺麗だと思えた。

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