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科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



最初に触れたのは髪先。
それから後頭部に回した掌で、くしゃりとオレンジ色の髪を囲う。
力の入らない腕で引き寄せれば、呆気なくその顔は私の胸元に降りてきた。



「……南?」



大人しく従うように胸元に寄せられた頭を、緩く抱きしめる。
腕の中で不思議そうに問いかけてくるラビの声。
その目は涙を零しているのに、そんな自分に気付いていないような声。

…もしかして本気で気付いていないのかな。



「…大丈、夫」



でも此処にはリーバー班長も他団員の人も沢山いる。
そんな所で、ラビの涙顔を曝したりしないから。



「私が…隠しておく、から……大丈夫」



ノアの方舟からラビが生還した時と同じ。
生きて帰って来られたことを噛み締めるかのように、何度も"ただいま"と口にしていた。
掠れた、小さな声で。

あの時、泣きそうな声で顔を隠していたラビだったから。
だから私が隠してあげようと思った。
他の誰にも見られないように。
いくらでも弱い顔をしていられるように。

私より強い、エクソシストという力を持ってるラビだけど…私のヒーローだけど。
私だってね、守りたいって気持ち…あるんだよ。



きっとほんとは、ずっと前から抱いていた思い。



だから傷付いて任務から帰ってくるラビ達を見てると、胸が締め付けられたんだ。
守られてばかりな弱い自分を、思い知らされて。

…だから、これだけは私が守るから。
ちゃんと隠し通すから。
安心していいよ。
弱いままでいたっていい。



「…ッ」



抱いていた頭が微かに震えた。
息を詰めたような音。



「…ぅ…ッ」



次に耳に届いたのは、小さな小さな嗚咽だった。



「ッふ…っ」



それから、大きく震える声。
抱いた頭から伝染していくかのように、屈んだラビの肩が、背中が、腕が、小刻みに震える。

ぱたぱたと私の胸元の服に落ちて染み込んでいくのは…透明なラビの涙。

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