第79章 無題Ⅱ
見えたのは、ぱっと視界に栄えるオレンジ色の赤い髪。
眼帯で隠して片目しか見えないのに、真っ直ぐ貫くような光を持っている翡翠色の目。
真っ黒なカーフピアスに、同じく真っ黒なバンダナ…じゃないな、今日は。
でも似たようなものを頭に巻いてる姿は、いつもの個性的な格好。
すぐ傍に立ってじっと私を見下ろしていたのは、ラビだった。
「──…」
息を詰めたように見下ろしてくるその顔も体も、肌が見える所はどこも打撲や切り傷の怪我の痕が見える。
もしかして…ラビもAKUMAやノアと戦ったのかな。
でも第五研究室にはラビの姿はなかった。
そういえば救助を待つ間、コムイ室長に大方のことは教えてもらった。
レベル4のAKUMAは研究室外まで侵攻して、更にそこで沢山のファインダーや他団員達が犠牲になった。
そんな中レベル4にとどめを刺したのは、クロス元帥とアレンとリナリーだったとか。
となるとラビもあのレベル4と戦ったのか。
ラビのイノセンスである鉄槌は、まだ科学班が修理物として預かってる。
AKUMAと戦うことのできないラビが、なにとどう戦ったのか。
…不安になる。
だけどその不安を真っ先に感じさせたのは──…その表情(かお)だった。
じっと真っ直ぐに私を見下ろしている、透き通った翡翠色の左目。
いつもは人懐っこかったり強い意志を宿したり、感情豊かな瞳なのに。
私を見下ろすその目は、見ているものを見ていないような、そんな不思議な雰囲気を醸し出していた。
どこか……苦しそうに、そして息を呑んでいるかのような、そんな顔。
どうしてそんな顔してるの…?
私の体が酷い有り様だから?
でもなんだか、そんな理由だけじゃ片付けられない顔のように見えた。