第79章 無題Ⅱ
「すみません。こちら、一度診せてもらってもいいですか?」
周りの生きている人達の姿にほっとしていると、担架に寝ていた私の傍に医療班の人が足を向けた。
その目は私の腹部に向いている。
そこにはリーバー班長が止血用に巻いてくれた、白衣が縛り付けてある。
怪我人は医療班の手が追い付かない程いるはず。
怪我の具合を知るのは、治療する者として状況を理解しておく為に必要なことなんだろう。
微かに頷けば「失礼します」と声をかけられて白衣を外された。
縛っていた白衣が少し緩められ、全て取り外される前にその手が止まる。
見上げれば、彼の顔が歪んでいた。
……やっぱり酷いのかな…。
「これは…」
「…先輩」
「ああ。…とにかく輸血が第一だ。至急頼むッ」
傍に立っていた後輩らしき女性に声をかけて、そっと腹部に白衣を被せるように戻された。
「あの…」
「大丈夫です。優先的に治療に当たりますから」
…ああ…やっぱり、酷いんだ。
「運んでくれ」
「はいっ」
「…南」
担架で運ばれようとする中、同じく担架に寝かされた状態のリーバー班長が少し離れた場所に見えた。
その薄いグレーの目は、横になったまま私をしっかりと映している。
「もう少しの辛抱だ」
「…はい…」
こんな状況でも労わってくれる班長の優しさに、胸がじんとする。
もう、大丈夫。
もう助かるんだ。
そう思えば一気に強張っていた筋肉が緩んで、どっと体が重くなったような気がした。
熱いとだけしか考えられていなかった腹部に、なんだか痛みを感じるようが気がする。
…ああ、これ生きてるからかな。
痛みを感じるのは、生きてる証拠だから。
───ザリ…
そんな思考を止めたのは、近くで聞こえた砂利を踏むような足音。
ふ、と顔に影がかかる。
誰だろう、また医療班の人かな。
そう思い、傍に立つその人物へと視線を上げた。
───あ。