第79章 無題Ⅱ
「こっちにも担架を!」
「傷の確認急いで!」
「おい!こっちも三名負傷者を発見!」
慌しく飛ぶ救助隊の人々の声。
ミランダさんは軽症だったマリが抱いて運んでいった。
他怪我の酷い私達は、救助隊の人達が持ってきてくれた担架に身を預けることとなった。
「リーバー班長」
「!…室長…」
担架に横になったリーバー班長に近付く人影。
そっと呼びかけるその人の声は、無線機の向こうで強く呼びかけてくれていた声。
コムイ室長だった。
大量のAKUMAとノアに襲撃されて以降、一度も見ていなかったその姿を改めて見る。
いつもの白い帽子や眼鏡は身に付けておらず、その真っ白な服も所々赤く汚れていたけど…大丈夫、そう。
酷い怪我はしていないみたい。
よかった。
同じことをリーバー班長も悟ったらしく、室長を呼ぶ口元が僅かに緩む。
「本部科学班だけあって根性がある。しぶとくて良い部下だ、コムイ…」
そこに声をかけたのは、別の担架で運ばれていた金髪の───…あ。
バク支部長、意識が戻ったんだ。
「…いえ…バク支部長がいてくれたから…助かりました…」
「当たり前だ。僕は優秀だからな」
班長の言葉に、口元を吊り上げて偉そうに笑う。
そのバク支部長の顔は、いつもより覇気はなかったけれど…ノアの方舟やこの研究所での仕事の邪魔をしてきた時と同じ。
変わらないその姿に、なんだかほっとした。
「バク様っ!うわぁあっ!」
そこに割り込んできたのはアジア支部の支部長補佐、ウォンさんだった。
滝のように涙を流しながら、バク支部長の担架に縋り付く。
そういえば…いつもバク支部長の傍に引っ付いてるウォンさんだけど、研究所に来た支部長の傍にはいなかったような…。
別の場所にいたから無事だったんだろう。
見たところ怪我はしてないようだ。
うん、よかった。
「大丈夫だ、騒ぐな…レニーは無事か…?」
そんなウォンさんに少し呆れた顔を向けながら、バク支部長が笑いかける。
覇気はないけど、ちゃんと笑えてるその姿にやっぱりほっとした。
生きてる。
私も、リーバー班長も、バク支部長も、ジョニーも、皆。
ちゃんと生きてるんだ。