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科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



───キィィィ…



微かな振動音。
それはミランダさんの両手を翳した彼女のイノセンスから。
私達を守る為に、発動し続けている音。



「……ミランダ…」



その手に、そっと重なる大きな手。



「…ミランダ、」



労わるようにもう片手を体に添えて。
手と同じく大きな体が寄り添う。



「もう解いていい…よくやってくれた…」



優しく声をかけるマリに、朧気な表情のミランダさんの顔がピクリと揺れる。

消火の為のスプリンクラーの雨が降り注ぐ中、強い炎はすぐには消えなかった。
それでも徐々に小さくなっていく炎は、時間をかけて消火された。
その間ずっとイノセンスを発動させ続けて私達を守り続けてくれたミランダさん。
強い力も体力もない彼女が、私達全員の命を守り続けてくれた。



「もう大丈夫だ…ミランダ。火は消えた…」



ザアアアア



強い雨の音が鳴る。

マリの言う通り、完全に消火された炎。
もう強い光はどこにもない。
はっきりと目に映る周りの光景は、崩れた通路や柱が転がっている残骸跡地のような有り様。
大きく研究所の床が抉れたその穴の中に、私達はいた。



「消火装置停止!」

「負傷者の確認を急いで下さい!」



雨音の隙間から届く、救助隊の人々の声。
それがミランダさんの耳にも届いたのか。
ふっと体の力を抜くように、彼女の手の中で輝いていたレコード型のイノセンスが光を弱めた。
同時にドーム状に張っていた時間の結界も薄れてゆく。

ぽつぽつと、私達の体に降り注ぐスプリンクラーの雨水。



「いたぞ!此処だ!」

「大丈夫ですか!?」

「八名発見!担架を!!」



一気に強い雨が私達の体を濡らしていく。
その中で見えた人影が幾つか、私達の元へ駆け付けながら声を張り上げた。

完全に結界が消え去ると、ミランダさんの体は力尽きたようにマリの腕の中に凭れた。
その目からは、ぽろぽろと透明な雫が零れ落ちていく。

降り注ぐ雨水じゃない。
あれは、ミランダさんの…涙だ。

助かったことへの安心感なのか。
そのまま眠るように目を瞑ってしまうミランダさんを、マリはそっと抱きしめた。



「…ありがとう。ミランダ」






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