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科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



「……すみません…班長…」



サアァァ…



小雨のような、音がする。
ゴウゴウと炎が鳴る隙間から届くように。
蚊の鳴くような小さな声で囁けば、それでもリーバー班長の耳には届いていたらしく。



「…南が謝る必要は、なんにも…ねぇよ」



背中に添えられていた手が頭部に触れて、くしゃりと一度だけ撫でられた。
それは班長が私の頭を撫でてくれる時の癖だ。
一度だけ優しく掻き撫でてくれる。



ああ、この人は変わらない。



どんなに絶望的な状況下でも、班長は班長のまま。
変わらないこの人の姿に、何故か酷く安心した。
なんだか、泣きたくなるくらいに。



「…ありがとう、ございます…」



ザアアァァ…



大雨のような、音がする。
ゴウゴウと鳴っていた炎の音が、いつの間にか聞こえなくなっていた。

班長の胸に凭れたまま、そっと目を開く。
強い白い光を放っていた周りの炎は、その威力を弱めていた。
もう強い光じゃない。
薄らとだけど見える、周りの風景。
瓦礫の山々と、守りに徹したティエドール元帥の茨のような"抱擁ノ庭"。
其処に降り掛かる雨。

……雨?

つい顔を傾けて高い天井を見上げる。
此処は研究所施設の中。
天井に穴が開かない限り、雨なんて降り注いだりしない。



ザアアアアア



雨の音が強くなる。

天井に穴らしきものは見えなかった。
これはもしかして…スプリンクラーのようなもの?
意図的に降り注いでるものだ。

もしかしたらコムイ室長の指示なのかもしれない。

強い雨に、萎んでいく白い光。
ゴウゴウと焼け尽くしていた炎の音が消える。
拓けていく視界。



「……か…!」

「…ぃ……ろ…!」



微かな人の声がする。



「班長……今…」

「…ああ。もしかして…」



思わず目の前の班長に問いかければ、同じことを考えていたのか。
その目が遠くに向く。

微かに届いた人の声。

それは───



「おい…!生きていたら、返事をしてくれ…!」

「大丈夫か…!?」



間違いない。
外部の人々の呼びかけだった。

思わず班長と顔を見合わせる。



救助が、来たんだ。

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