第79章 無題Ⅱ
「"抱擁ノ庭"も視認できます…皆、まだ生きてます…っ…頼みます、消化を…炎を消して下さい…ッ」
『わかった、すぐに消す!もう少し頑張るんだ!』
声を絞り出すリーバー班長に、ヘッドホンの向こう側のコムイ室長が大きな声を張り上げる。
その声に意識がミランダさんから周りに引き戻される。
『ミランダの消耗を少しでも抑えられるよう、体をできるだけ寄せ合って"時間停止"の範囲を小さくするんだ!』
体を…寄せ合う…。
室長の指示を耳にしながら、辺りを見渡す。
私とリーバー班長とミランダさん以外は、皆気絶しているのか動かない。
エクソシストであるマリとブックマン。
科学班のジョニーとロブさんに、他支部配属であるバク支部長とレニー支部長。
他には……誰もいない。
この場でミランダさんの結界に守られているのは、たった六人の人間だけだった。
他の科学班の研究員達は、フロワ・ティエドール元帥の"抱擁ノ庭"で守られているかもしれない。
……だけど…
「…っ…」
マービンさん…ハスキンさん…一緒にあの場にいた、あの人達は……もう───
「南、」
名前を呼ばれる。
はっとして顔を上げる。
見えたのは、私を見てくるリーバー班長の顔。
「怪我人のお前を使って、悪い…だけど時間がないんだ…ジョニーの体を、ミランダの傍に寄せてやってくれるか」
「は…はいっ」
そうだ。
嘆いてる暇なんてない。
今この場で消えかかっている命を助けないと。
私達にできることを全力でこなして抗わないと。
嘆くのなんて後だ。