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科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



「ミランダ、さん…」



なんとかミランダさんの横顔が確認できる場所までにじり寄る。
見えたのは、やっぱり。
レコート型のイノセンスを両掌の中で発動させて"時間停止"を起動させている姿だった。

その目は朧気にじっと自らのイノセンスを見つめている。
近くで見ればミランダさんの体は全身ずぶ濡れで、切り傷や打撲の跡も見えた。

ボロボロだった。
それでも浅く短い呼吸を繰り返しながら、じっと耐えるようにイノセンスを発動させていた。

ミランダさんのイノセンスの技は、主にサポートタイプが多い。
故にミランダさん自身も任務中は非戦闘員の立場でいることが多く、同じ女性エクソシストのリナリーに比べると戦闘力も格段に低い人。
イノセンス適合者という特異体質なだけで、それ以外は極々普通の一般女性。
それがミランダ・ロットーという女性だった。



「ミランダさ……ごめ、ん……ごめん…」



無理しないで、なんて言えない。
だって私達の命はミランダさんのこの辛うじて保っている意識という細い糸一本で、繋がっているようなものだ。

細い彼女の繋いだ糸に縋ってないと、すぐ消えてしまう命。

そんな頼ることしかできない自分に、謝罪することしかできない自分に。
歯痒さを感じて食い縛る。



「…南、さん」



弱々しく優しい声が私を呼ぶ。
顔を上げれば、ゆっくりと視線だけ私に向けるミランダさんの横顔が見えた。



「謝らないで…そんな必要、ないわ」



額に浮かんだ無数の汗が、ミランダさんの頬をゆっくりと伝って落ちていく。
切り傷の入った顎のラインを伝って、音もなく落ちる。



「謝らなくていいから……生きていて。私が願うのは、それだけ…だから…」

「ミランダさん…」

「ごめんなさいね…私の方こそ……こんな、頼りないエクソシストで…」



にこりと、苦い笑みを浮かべて儚く笑う。



「アレンくん達のように、戦えなくて…」

「……ううん」



そんなことないよ。
今だって充分戦ってくれてるから。



「そんなことない」



必死に私達を守り続けてくれているミランダさんに、上手い励ましも労いも言葉にはならなくて。
ただただ首を横に振り続けた。

そんなことないよ。
そんなことないから。

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