第79章 無題Ⅱ
イノセンスを発動させているなら、ミランダさんも意識ははっきりしているはず。
なのに私の声に応えないのは…構う余裕もない程、その体力も限界がきているのかもしれない。
「班、長…このまま、じゃ…」
「ああ…いつかミランダの体力が尽きて、"時間停止"の効果が消える…その前に救助を要請しないと…」
私の上から身を退いたリーバー班長が、出血している額を片手で押さえながら辺りを見渡す。
「俺の無線機は壊れたが、ジョニーのがまだ使えたら…外部と連絡が取れる…っ」
そういえば…バク支部長が身に付けていた、ジョニーのヘッドホン。
目で追ったバク支部長は、倒れて気絶したまま。
その傍らに外れたヘッドホンが転がっていた。
あれはジョニーのお手製で頑丈な造りをしてるから、まだ使えるかもしれない。
班長も怪我が酷いんだろう。
立ち上がることなく、這いずるようにしてヘッドホンの傍まで寄る。
その手に掴んで操作しながら、最初は難しい顔をしていたけれど、不意にその顔色が変わった。
『───ジ…ジ…』
「室長…っ?コムイ室長…っ!」
口元にヘッドホンを当てて、何度も大きな声で呼びかける。
もしかして繋がった?
『─…バ…?…リーバー班…か…!?』
私の元まで確かに聞こえた。
ヘッドホンの向こうから届いたのは、聞き覚えのあるコムイ室長の声。
よかった、まだ使えたんだ…っ
「はい、リーバーです…すみません、今意識が戻って…自分達は第五研究所の下…瓦礫と炎の中に…詳しい位置はわかりませんが…っ」
必死に息継ぎをしながら、班長が声を絞り出す。
いつ無線機が使えなくなるかわからない。
急いで室長に現状を伝えようとしているんだろう。
「ミランダさんの…っ"時間停止"の中にいて…っお願いです、早く…彼女も限界なんです…ッ」
なんとか声を張り上げて、ヘッドホンの向こうへと呼びかける。
寝返りを打って腹這いになれば、怪我した腹部が鈍く痛んだ。
それでも腕を使ってなんとかにじり寄る。
リーバー班長の元へ、ではなく。
私達を守ってくれているミランダさんの傍へ。