第79章 無題Ⅱ
「ジョニー達も、ちゃんと息はある…俺がこの目で確認した……だから心配するな」
そう、もう一度念を押すように優しく投げかけられる。
指先で私の目の縁をなぞって。
その手に拭われて、私は目元が濡れていることに気付いた。
班長の顔がぼやけてたのは…泣いてた、から…?
「大丈夫だから───…」
その先の言葉は聞けなかった。
ぐっと唇を噛み締めて、班長自身がその先を飲み込んでしまったから。
眉を寄せて、苦しい顔をして。
…あ。
この顔、知ってる。
他人の死に触れた時に、班長が時折垣間見せていた顔だ。
…大丈夫じゃ、ない…よね。
大丈夫なんかじゃ、ないよね。
大丈夫な訳ない。
だって…沢山、沢山……死んだ。
私もこの目で見た。
頭を果物のように潰されていく皆を。
この目に焼き付いた。
体を燃やされて断末魔のような悲鳴を上げる皆が。
生暖かく迸る、咽せ返るような血の臭い。
人の肉の焼ける、鼻が曲がるような異臭。
命を潰され死を迎えた人の、断末魔。
呆気無い程の、掠れた最期の悲鳴。
苦痛。
絶望。
恐怖。
沢山…たくさん、見たから。
夢なんかじゃない。
夢だったら、なんて思いたくても思えない。
この引き裂かれた胸の痛みは、そんな甘い幻想で消えたりしない。
「っ…」
「…班、長…」
ぐっと歯を食い縛って、耐えるように顔を歪めるリーバー班長。
なんて声をかけたらいいのか。
言葉なんて思いつかないけど、手を伸ばさずにはいられなかった。
…私も一緒ですから。
一人じゃないから。