第79章 無題Ⅱ
「…ふ…っ」
眼球に張っていた透明な雫が溢れて、皮膚の上に零れ落ちる。
ぽろり、ぽろりと。
私の頬を伝って落ちていく幾つもの雫。
───…ああ、
痛む胸の奥底から広がっていく。
溢れ出す。
なんで忘れていたんだろう。
こんなにも強烈に私の心を引き裂いたのに。
「っ…う…ッ」
ぼろり、ぼろりと。
頬を離れて赤い床に落ちていく透明な雫。
止まらない。
止められない。
この堰を切った感情を止める術を、私は知らない。
…私、頑張るから
また怯えてしまうかもしれないけど
体は竦んでしまうかもしれないけど
今度は、私も守るから
皆のこと
これくらいの怪我なら、また受け入れたっていい
怖いけど
痛いけど
怪我なんて、時間が経てば治るから
これくらい大丈夫
大丈夫だよ
滲んだ視界に見えたのは、霞んで薄れゆく皆の姿。
白い光に包まれる。
───…だから、
「…ぃ…」
傍にいて
消えないで
お願い
お願いだから
「…いか、…で…」
逝かない で