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科学班の恋【D.Gray-man】

第79章 無題Ⅱ



「ん、そこ」

「?」

「口元。涎」

「あっ」



トントンとマービンさんが指先で自分の口元を指し示す。
慌てて涎が付いた口元を白衣の裾で拭えば、わしわしと頭を乱暴に撫でられた。



「寝落ちたい気持ちはわかるけどよ、まだ仕事は残ってんだ。もうひと踏ん張りしろ」

「え…」



辺りを見渡す。
あちこち見える皆のデスクには書類の束が山のように積み上げられていて、その隙間から白衣姿の人影がちらほら覗いている。
その誰もが身を屈めて、デスクに齧り付くように仕事をしていた。

…ああ…確か溜まりに溜まった今月の決済と、ファインダーからの調査任務の情報処理と、エクソシストの武器の思案書と…なんだろうまだ何かあったかな。
とにかく色々急ぎの仕事が混ざって、一気に膨れ上がったんだっけ。

お陰で皆で毎日、徹夜並みの残業三昧。
…これ残業何日目だったっけ…。



「おーい、南。意識飛ばすなー」



ひらひらと目の前でマービンさんの手が振られる。
いけない、ぼーっとしてた。



「ほら、南。一回これで顔拭いとけ。少しは目が覚めるだろ」

「…ハスキンさん」



不意に目の前に差し出されたのは、水で絞られたハンドタオル。
思わず目を瞬く。
受け取りながら顔を上げれば、柔らかい笑みを見せて傍に立つハスキンさんの姿があった。



「ありがとうございます」

「よっし、じゃあ俺も仕事戻るか。次寝たら水ぶっかけるからなー、南」

「う。…それって一種の苛めじゃありません?もう」

「ならもう寝落ちんなよ。仕事溜まってんだから」



顔をゴシゴシと濡れたタオルで拭きながら、ケラケラと笑うマービンさんについ本音で返す。



「大丈夫だよ、南。その時は俺が止めるから」



苦笑混じりに優しくフォローを入れてくれるハスキンさんは、相変わらずいつも優しい。

リーバー班長が厳しい分、班長補佐のハスキンさんはこういうさり気ないところで気遣ってくれる。
嫌味なんてない優しさ。
班長補佐はこの人しかできないだろうなって思う。
科学班のアイドルであるリナリーとは違う意味で、私の癒しだなぁ。

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