第79章 無題Ⅱ
真っ白な光だった。
視界一面を覆い尽す、強く白い光。
眩しくて眩しくて目を開けていられない。
だからぎゅっと目を閉じた。
固く瞑って、リーバー班長の頭を囲うように抱いて。
それでも瞼の上から当たる光は、見えない視界を明るく照らす。
瞼の毛細血管が光に照らされて、少しだけ赤黒く見える視界。
だけどその世界はすぐに、白く強い光に塗り潰された。
───…どれくらい、そうしていただろう
"───…ぃ…っ…って…"
真っ白な光の中。
眩い、何も見えない白い白い世界。
耳に微かに届いたのは、どこか懐かしく感じる人の声だった。
「おいって、南っ」
「…ん…?」
肩を揺さぶられる。
その衝動に意識は覚醒して、重い瞼が開く。
固い何かに頬を預けたまま、横に傾いた視界に映ったのは沢山の書類の束。
インク瓶に浸けっ放しの汚れたつけペン。
くしゃくしゃに丸めて潰した没の企画書。
「起きろって。まだ仕事は終わってねぇぞー」
「ふぇ…」
「あーあー、涎垂れてんぞ。きったねぇなぁ」
覗き込むようにして笑っている顔。
口には短い咥え煙草。
目元を隠す前髪にボサボサの長い茶髪を、いつも一つに結んでいる姿。
「…マービン、さん…?」
「おうよ。おはよーさん」
顔を上げる。
其処にいたのは、職場の見慣れた先輩だった。