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科学班の恋【D.Gray-man】

第78章 灰色の世界



「今は…触れられてるから…涙、感じられて、るから…だから、いい」



オレの頭を抱くように、腕が回される。



「…生きてるんだなって…そう、思えるから…」



噛み締めるように呟いて。
オレの頭を抱く腕が、微かに強くなった気がした。



「…私…生きてるんだなぁ…」



もう一度。
呟く南の声は、改めて実感するようなぼんやりとした声。
なのにその声は、少しだけ震えているように聞こえた。



「私も…ラビも…生きてる、から。だから…こんなに苦しくて…嬉しいんだなぁ…」

「…南…」



もそりと顔を動かせば、抱いていた腕は簡単に緩んだ。
少し顔を離して見えたもの。
オレを見上げて少しだけ目を潤ませた、ボロボロの南の顔。



「嬉しいのに、苦しいなんて…変だね」



力なくその顔が笑う。
そんな表情に、胸がぎゅっと締め付けられた。
理由はよくわからなかった。
ただ、なんとなくその感覚はわかったから。

南が生きてるって実感して嬉しさはこみ上げたのに、胸はただただ締め付けられて。
今だってこの目から溢れる涙は止まらず、オレの頬を伝っていく。



「……ラビって、さ」



黒焦げの手が伸びる。
ガサガサに焦げて硬くなった指先が、労わるようにオレの目元に微かに触れた。



「結構、泣き虫…だよね」

「………」

「泣いてる所…沢山見た訳じゃ、ないけど…泣きそうな所は、よく、見たこと…ある」

「…うっせ」



んなもん、オレが一番よくわかってんさ。
泣き虫でガキみたいな弱い自分を、内に抱えてんだから。

目を背けていた自分の弱みを突かれて、思わず悪態をつく。
そんなオレに、南は嫌な顔なんて一つもせずに。



「…綺麗」



笑った。






………は?






「…涙…綺麗、だな」






微かにはにかむ。
その口から発せられた言葉は、いつしかオレが南に抱いたものと同じだった。

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