第78章 灰色の世界
「私は、…好きだよ。その、涙」
…オレもおんなじだったんさ
無理に泣かせたくないけど、でも南の涙も好きだって
こんな綺麗なもん、見たことないって
あの列車の中で見た泣き顔に目を奪われた
「綺麗で…あったかい、ね」
黒焦げの指がオレの目元に触れる。
透明な滴が、その指先を伝っていく。
まるでそこから、色付くように。
焦げた手は真っ黒じゃなかった。
───赤黒く焦げ付いた肌色
涙と血塗れの顔は、煤のような色じゃなかった。
───肌色に混じる、赤と灰色と黒
オレの顔を映す見慣れた瞳も、塗り潰したような黒じゃない。
───つるりとした光沢に濡れて光る、黒い瞳に映る白い光
色付く世界。
「……っ」
「……ラビ…?」
微かに開いてオレを呼ぶ唇は、薄い桃色。
何かで切ったのか、その唇には深く赤い線が入っていた。
擦り切れて辛うじて身に纏っている白衣は、煤汚れた白を隠す程に赤い斑点が飛び散っている。
鮮やかに色付く。
肌の色。
髪の色。
身に纏うものの色、全部。
そのどこにも必ず入り込んでくる、鮮やか過ぎる程の真紅。
真っ赤な血の色。
「ッ…」
灰色の世界の時は感じなかった。
目に鮮やか過ぎる程に主張してくる真紅は、オレの胸を締め付けた。
痛い。
その散々な有り様に、痛みを感じる。
なのに。
「…南の方が…ずっとずっと、綺麗さ」
目を奪われた。
…ごめん、南。
でも…綺麗だと思ったんだ。
色付く世界で、生きている南の姿が。
息衝いてる姿が。
凄く、綺麗だと思った。
「すげぇ綺麗だ」
戻ってきたんだ。
鮮やか過ぎる程に、強烈な色を魅せる世界。
生きてる、オレの世界が。