第78章 灰色の世界
瓦礫だらけの残骸跡地の中。
「"抱擁ノ庭"だ!ティエドール元帥、聞こえますか!?」
「元帥!」
『ああ、聞こえてるよ。よかった』
大きな茨の森のようなものが、あの炎の中でも燃えずに残っていた。
あれは確かユウんとこの元帥、フロワ・ティエドールのイノセンスの能力だったはず。
メキメキと茨のツルを左右に開いて、中から現れたのは───
「私だけじゃとても手当てしきれなかったんだよ。早く彼らを助けてやってくれ」
ティエドール元帥と、沢山の負傷した研究員達。
ミランダの能力だけじゃなく、ティドール元帥の手でも研究員達は守られていたらしい。
「っ…!」
痛む体を押さえて、スプリンクラーの雨が弱まった研究室跡地に踏み込む。
この中に南はいるのか。
「南…っジジイ…!」
だけど二人の姿は見当たらない。
「バク様っ!うわぁあっ!」
「大丈夫だ、騒ぐな…レニーは無事か…?」
その時耳に飛び込んできたのは、知った名だった。
向いた先には、担架に寝かされた人物に齧り付く老人が見える。
あれは…確かアジア支部の支部長とその補佐官だったはず。
その傍には…コムイ?
「!」
なんとなく知った顔に足が向いた時、傍で運ばれる担架の上の見知ったシルエットに気付いた。
小柄な体。
隈取り並みに濃いパンダ化粧。
「ジジイ!!」
見間違いない。
ブックマンのジジイだった。
「死んだか!?」
「…阿呆が来よった…」
咄嗟に駆け寄って担架に齧り付く。
体中ボロボロでぐったりと横たわっていたけど、大声で呼びかければ力なくも返される。
確かにジジイの声。
「大丈夫じゃ。それより儂の髪の毛は燃えとらんかの…?」
「知るかッ毛なんてどうでもいい!」
「どうでもようないわ…」
こんな時に髪の毛の心配かよ!
毛なんて燃えても痛くねぇだろ!
自分の体の方を心配しろよ!