第78章 灰色の世界
「っ…コム───」
「兄さん!!」
口を開く。
呼ぼうとしたオレを遮ったのは、必死に搾り出すようなリナリーの声だった。
「研究室に生きてる人がいるの…!?」
どうやらその耳にもコムイの声は届いていたらしい。
「そうなんですか!?コムイさん!!」
切羽詰まったように問いかけるリナリーとアレン。
そんな二人に躊躇はない。
…普通はそうだろうな。
生存確認なんていち早く知りたいだろうし。
普通そこに躊躇なんて生まれない。
「…ああ!」
短い返事だった。
でも何よりも二人の望んだ返事を、コムイは口にした。
それだけで充分だったんだろう。
胸の前で両手を強く握り締めるリナリーの口元に、微かな笑みが浮かぶ。
自分の体を支えるように退魔の剣を握り締めていたアレンの目から、一滴の雫が伝い落ちた。
特にアレンはあの研究所の壊滅状態を、目の当たりにしていただろうから。
ほっと小さな溜息をついて、それから歯を食い縛って。
俯く様は、言葉なき安堵の姿だった。
「…っ」
だけど、そん中に南達はいるんさ?
確認しに行きたい。
この目で確かめたい。
痛む体に鞭打って立ち上がる。
「ラビ」
静かな声で呼ばれた。
通路の上に立つ、コムイから。
再び顔を上げて見えたのは、真っ直ぐにオレを見下ろしてくる目。
その口元が薄らと開いて───
「微かだけれど、通信機の向こうから南くんの声が聞こえた」
───え?
「彼女はきっと生きてる」
言葉が出なかった。
動くこともできなかった。
南が…生きてる?
「………」
嘘じゃねぇんさ?
幻じゃねぇ?
だってオレの視界は灰色で。
こんなの夢だって思っても仕方のない光景なのに。
夢じゃない?
「生きてるんだよ」
念を押すように紡がれた"生"の言葉。
ドクリと、心臓が大きく脈打った。