第78章 灰色の世界
「クロス元帥。私は上に戻ります。アレン・リナリーと共に目標の破壊、頼めますか」
「言われるまでもない。行っていいぜ、"室長"」
冷静さを取り戻したコムイが、教団の"室長"としてクロス元帥に指示を出す。
でもそんなもん、今のオレの頭には入ってこなかった。
上って?
第五研究所の所さ?
あんな火の海で壊滅状態だったのに、そこに希望があったってことなのか。
ドクドクと心臓が強く脈打つ。
「ッ…」
冷や汗が伝う。
それは第五研究所が大量のAKUMAに襲われたと知った時に浮かんだものと、同じものだった。
…南は?
ジジイは?
その中に二人はいるのか。
聞きたい。
でも聞くのが怖い。
もし助かっているのがリーバーや他の研究員達だけだったら。
その中に、二人の姿がなかったら。
希望を抱いて、もう一度絶望に叩き落とされたら。
今度こそオレは立っていられないかもしれない。
「くそ…ッ」
こんな時まで弱くて情けない自分の心に腹が立つ。
「神田くん!ラビ!大丈夫か!?」
そこに飛んでくるコムイの声に、はっとした。
顔を上げれば、通路から身を乗り出して呼びかけている姿が見える。
ドクリと、心臓が鳴る。
───聞かねぇと
ぎゅっと拳を握り締める。
───南やジジイのこと
───ちゃんと聞かねぇと
「すまない、武器のない君達を戦わせて…!」
違う、オレが聞きたいのはそんな言葉じゃない。
ちゃんと聞かねぇと。
自分の口で。
「はぁ?テメェに謝られる筋合いはねぇ。AKUMAと戦んのが俺の仕事だ」
コムイの言葉につんとした相変わらずの態度を示したのはユウだった。
当たり前に言ってるけど、その体はオレ同様にボロボロ。
"セカンドエクソシスト"の再生能力を持ってしても、ボロボロだってのに。
弱音なんて当たり前に吐いたりしない
そこんとこ、ユウってばマジ男前だよな。
オレもそんくらいの度胸が欲しいさ。
二人の安否くらい、簡単に聞けるだけの度胸が。