第78章 灰色の世界
私の守りたいものは兄さんだけだった。
でも、いつの間にか「ただいま」と言えるようになった。
当たり前に「おかえり」と迎えてくれる、彼らに対しても。
望んだものは一つだけだったのに。
気付けばそれは一つじゃなくなっていた。
私の世界を作り上げてくれたのは、兄さん一人じゃない。
檻同然だった教団を"ホーム"と呼べるようになったのは。
この暗い教団の中で、温かく迎え入れてくれた彼らもいたから。
「………」
その皆が…もう、いない。
「…っ」
いないんだ。
「っ…!」
目の奥が熱くなる。
───駄目。
泣かないで、リナリー。
今は泣いてる時じゃない。
くっと唇を噛む。
「私もごめん…来るのが遅過ぎたね」
そっとそのボロボロの体から手を離す。
アレン君を責めたりしないよ。
アレン君が悪い訳じゃない。
私がもっと早くに"黒い靴"とシンクロできていたら。
…でもそれもアレン君の言葉と一緒。
どんなに嘆いてもなにも変わらない。
今、私達にできることは。
「あいつを止めよう」
皆の命を奪った、その元凶の破壊。