第78章 灰色の世界
「……うっぷ…リナリ…」
高い広間の天井近くで、アレン君の呻き声がする。
「速過ぎ…」
AKUMAの攻撃を避けるように、アレン君を抱いて跳んだ体は一瞬で移動していた。
「ごっごめんっやだ吐きそう?」
口元を押さえて顔を真っ青にするアレン君に、慌てて様子を伺う。
可笑しいな、こんなに高く跳ぶつもりなかったのに…久しぶりで感覚鈍った…?
「何…これ…?」
見下ろした"黒い靴"のかかとの先には、蝶々のような形状のものが出現していた。
さっきまではなかったのに。
「!」
その目線を下げた先に、追ってくる白いAKUMAが見える。
「アレン君、掴まってて!」
「! リナ…ッ」
声を待たずに、彼の体を抱いたまま"黒い靴"の先で蹴りかかる。
まるで真似るように、同じく足を向けて突っ込んできたAKUMAと、真正面からぶつかった。
「…っ!」
ビリビリと感じる激しい衝突と衝撃。
このAKUMA強い。
これがあのレベル4?
「リナリー…僕は大丈夫だから、離して。道化ノ帯を伸ばせば落ちないから…」
衝撃に耐えていると、私を気遣うように力ない声でアレン君が声をかけてくる。
抱いた体に力は入っていない。
近くで見ると更によくわかった。
アレン君の体の酷さ。
あちこち血に塗れて、きっと立っているのもやっとなはず。
それだけ、沢山AKUMAと戦っていたんだ。
ギャッと足を逸らしてAKUMAの攻撃を受け流す。
距離を取りながら、アレン君から体を離そうとして。
「それから…皆を…全然守れなくて…ごめん…」
ぐっと歯を食い縛って呟く、その顔が見えた。
"皆"と言われて思い浮かぶのは一つだけ。
第五研究所のこと。
科学班の、皆のこと。