第78章 灰色の世界
───ドク ン
体内に取り込んだイノセンス。
液体化したそれを飲み込んだ瞬間、体の内側で鼓動のような音がした。
───ドク ン
「リナ…リ…ッ!」
後ろへと倒れ込むように傾く体。
兄さんの悲鳴のような声がしたと思ったら、倒れる体を支えられた。
あ、そんな声しないで。
私は大丈夫。
大丈夫だから。
───ドク ン
口元。
喉。
胸。
お腹。
下半身へと、鼓動が伝っていく。
言いようのない、異物が体を巡るような感覚。
それが太腿を伝って足首へと下りたように感じた時。
ドシュッ…!
「っ…!」
「!?」
両の足首から血が噴き出した。
「う…あ…っ」
両足首が裂けて、ドクドクと大量の血が溢れ出す。
座り込んだ金網の床を染めていく。
真っ赤なそれは、私の血。
「出血…!?……まさか…拒絶反応…っ?」
私を抱いた兄さんの声が、霞む意識の中耳に届く。
拒絶反応…?
これ、イノセンスに拒絶されてるの?
「アレン・ウォーカー!」
「離れろッ!」
「くははははっもっともっと♪えくそしすと」
衝突音に混じる、ルベリエ長官の声とアレン君の声。
あと…知らない子供の声。
知らないけれど、どこか不気味さを感じさせる笑い声。
…戦ってる。
すぐ傍で。
アレン君が、AKUMAと戦ってるんだ。
「あぁあああ!!!」
吠えるような叫び。
兄さんの腕の中から見えたのは、すぐ傍で真っ白い子供のようなAKUMAと対峙するアレン君の姿だった。
片手で握った退魔の剣で、AKUMAと競り合っている。
いつもの白いマントに包まれているけど、ボロボロな姿なのは一目でわかった。
沢山、戦ってるんだ。
一人で。
…行かなきゃ、あそこに。
私も。
戦わなきゃ。