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科学班の恋【D.Gray-man】

第78章 灰色の世界







視界が霞む。
ドクドクと頭から流れる血に熱い感覚。
それでも這い蹲った体は、手を伸ばせば触れられる所まできていた。



「イノ…セ…ス」



手を伸ばす。
淡い光に包まれたキューブ状のそれに。



「もう…嘆くのは、疲れたよ…」



淡い光に指先が触れると、ぱんっと音がして光が散った。
私の声に反応するかのように、キューブ自体から発せられる光が強さを増す。
触れた"黒い靴"のイノセンスは、温かかった。






私はもうベッドで泣いてる

あの頃の弱い女の子じゃない






…もう、馬鹿みたいな想像は止めるから。






兄さんや皆がいてくれる

それだけで、悪夢のようなこの世界で戦える






両の掌に乗せて、温かいイノセンスを胸に抱く。






「イノセンス…私のこの気持ちが皆を守る力に変えられるなら…私はあなたについていくわ」






そっと呼びかける。
私の声が届いているなら。
お願い。
応えて。






「全部終わるその日まで、どこまでも」






…でも
でもね
きっと最後には…






───ザリ…






足音。
イノセンスを抱いて座り込んだまま、顔を上げて見えたのは。






「リナ…」






………兄さん…






最愛の人。






きっと最後には、兄さんの元に帰ってくるって約束するよ






ゴボ、と掌に乗ったキューブ状のイノセンスが溶けるように液体に変わる。
…ああ、私の思いに応えてくれるのね。






「"いってきます、兄さん"」






いつものように兄さんに言葉を送る。
教団でエクソシストとして戦うようになって、毎日見送ってくれていた兄さんに、毎日向けていた言葉を。



…大丈夫。
私、ちゃんと笑えてる。
ちゃんと心から笑えてるから。






だから今はお願い

"いってらっしゃい"と言って






掌を口元に寄せて、傾ける。
真っ黒な液体と化したそれは、私の喉を通って滑り落ちた。










また笑って「ただいま」を言うから









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