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科学班の恋【D.Gray-man】

第78章 灰色の世界



「…アレン…?」



思わず頭に浮かんだ名前を読み上げる。
オレに掴まれた服を振り払うこともなく、ユウの目は真っ直ぐにこっちを見ていた。



「あいつの性格は知ってんだろ。目の前に傷付いてる奴がいたら、自分の命なんざ構わず助けに突っ込む奴だ」



それは…そうだけど。



「真っ先に戦前に向かう奴が生きてんだ。なら他の奴らも生きてる可能性は残ってるだろ」



それも…一理あるけど。
…でも…



「…っ」



簡単に肯定できないのは、あの壊滅状態の"死"を見てしまったから。



「でも…」



あそこで、どうやって希望を見つければいいんさ。
…オレはユウみたいに強い意志なんて簡単に掲げられない。

……ほんと情けないと思う。

南みたいに弱い自分と向き合う心だって持ってねぇし。
ジジイみたいに冷静に物事を傍観する心だって持ってない。

可能性ある言葉をこうして投げつけられても、簡単にそうだなって肯定もできない。

…これがオレの心だから。

頭に膨大な知識を詰め込んで立ち回っても、結局はロードの夢の中で泣き叫んでいたガキのまんま。
しんどいことに目を背けて怯える弱いガキのままだ。






「死ぬなんて論外だ」






ぽつりと、低い声でユウが呟く。
唐突な言葉に意識が止まる。

…なんさ急に。






「椎名が俺に言った言葉だ」

「…南?」






目を見開く。
南の言葉?






「…アジア支部への任務途中で、あいつはノアに捕まった」

「!?」




立て続けに知らされた情報に、今度こそ言葉を失った。
ノアに……捕まった?



「コムイの薬で餓鬼にされた状態のままで、一人AKUMAに追われてノアに捕らえられてた」



言葉を発せられないオレを無視して、ユウは淡々と述べ続ける。



「それでもあいつは"死"なんて覚悟しちゃいなかった。どんなに体や心を痛め付けられたって、諦めた顔はしちゃいなかった」



南はオレらが方舟から帰った時、いつものように出迎えてくれてた。
笑顔で「おかえり」って言ってくれた。

…そんな経験してたなんて、露程にも思わせない顔で。

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