第78章 灰色の世界
ヒュオ…!
空を切るような音がした。
高い広間の天井から落ちてくる何か。
それは落ちてくるというより突っ込んでくるという方が正しくて、勢いよくリナリーとレベル4がいた通路の上に降り立った。
あれは───
「アレ…ン…?」
見覚えのある大剣状のイノセンスを掲げた、マントに覆われた姿。
目を疑った。
アレン…!?
「生きてたんさ…!?」
まさか。
壊滅状態の第五研究所には、アレンの姿はなかった。
あれは死んだんじゃなく、レベル4を追ってたのか。
「あれ?きみそんなにうごけるなんておかしいよ。うごけないくらい、いためつけたのに」
アレンが降り立つ直前に跳び退いたレベル4が、空中でくるくると回転しながら不思議そうに首を傾げる。
ってことは、やっぱアレンはレベル4と戦り合ったのか。
そんなレベル4に何も応えることなく、地を蹴り退魔の剣で斬り掛かる。
アレンの表情は、マントに付いた仮面で覆われていて見えない。
「アレンくん…ッ!」
激しい攻防をしても、レベル4の強さは桁違いだった。
弾き飛ばされたアレンの体が、壁に激突して落下する。
傍にいたコムイが慌てて駆け寄って、その顔を歪ませた。
「この傷…こんな状態でどうやって動いて…!?」
レベル4が痛めつけたって言葉は本当だったらしい。
それでも死は免れたのか。
アレンは臨界点を突破できたエクソシストだ。
実力は元帥と同等のもの。
それ程の力があったから、あの壊滅状態の研究所から生還することができたのか。
「………」
…それなら南は?
ジジイ達は…他の皆はどうなったんだ。
アレンは知ってるのか。
皆の末路を。
それだけがオレの頭に引っ掛かって思考の邪魔をする。
くそ、こんな時に余計なこと考えてんじゃねぇさ…っ
今はあのAKUMAを破壊することが第一だってのに。
「は…心が邪魔してんのか…」
心が意志を超える。
…ロードの夢ん中でもそうだった。
本物じゃないとわかってても、南の幻はしかとオレの意識を捕らえて離さなかった。
「…情けね…」
口の端から、乾いた自嘲の笑みが漏れる。
ほんと…情けねぇ。