第14章 デンケ村
「私、次の駅で戻るから。先に行っていいよ」
「何アホなこと言ってんさ」
いえ、私もアホなこと言ってる自覚はあるけど。
ありますけど。
命綱も無しに高速の列車から跳び下りることを考えれば、全然遠回りできます。
はい。
「命は大事っ尊ぶべきものですっ」
「…いつからシスターに転職したんさ…」
なんとでも言って下さい。
「大丈夫だって。離さねぇから」
微動だにしない私に、ラビがはっきりとした口調で言う。
ラビの身体能力の高さは知っていたし、ゴーレムに記録されていた映像で鉄槌に乗って移動する姿を見たこともある。
以前の私なら、多分その手を握っていたかもしれない。
でも、今は。
「っ…」
ラビへの不安感が、一瞬それを躊躇させた。
「僕がいきます」
ラビと私。
その間の視界を遮ったのはアレンだった。
「南さん、ごめんなさい。失礼しますね」
「え?…わっ」
歩み寄ったアレンが私の腕を掴む。
軽く引き寄せられたかと思えば、ぐるりと視界が回った。
「アレン…っ!?」
「怖かったら、目を瞑っていればいいですから」
回った視界に映ったのは、アレンのドアップと個人車両の天井。
…何故私は彼に抱き上げられているのでしょう。
「いや、ちょっと、待って…!」
「大丈夫ですよー、すぐ終わりますよー」
強風が顔に当たる。
思わず身を竦めればアレンが子供をあやすように、軽い口調でぽんぽんと私の背中を撫でた。
「ラビ、お願いします」
「…ああ」
思わずアレンの団服にしがみ付いて、彼越しに見えたラビと一瞬目が合う。
だけど何か言いたげな目は何も語らず、すぐに逸らされた。
「大槌小槌─…"伸(しん)"!!」
ラビの掛け声と共に、ギュオッと一気に鉄槌の柄が伸びる。
走る列車の窓から森の中へと。
同時に、一気に加速する体感風速。
「待っッッ───…!」
急降下する空気と振動に悲鳴を上げる暇もない。
私はただただ強く目を瞑って、目の前のアレンの体にしがみ付くことしかできなかった。
し、心臓に、悪過ぎる…!