第78章 灰色の世界
目を背けたくなる程の大きな傷跡。
なのにそれはあっという間に、手品のように消えて肌は再生していった。
確かユウの体は"セカンドエクソシスト"っていう特異なものだった。
その再生能力か。
「ラビ…!?」
「よかったさ、生きてたか!」
駆け寄りざっと見渡すところ、コムイに大きな傷は見られない。
ユウが守ってくれたらしい。
「ラビがいるってことは…」
オレを見上げたコムイが、はっと顔色悪く広間の通路を見上げる。
「リナリ…!」
見つけた実の妹の姿に、その顔は歪んだ。
「おいかけっこはおしまいですか、"しつちょう"」
「──!」
子供のような高い声。
その声の出所はすぐ傍にあった。
立ち昇る煙の隙間から姿を現したのは、真っ白な体の謎の生物。
大きさは人間の子供くらいで、その姿形も人に酷使していた。
ただ背中に背負った光る羽と頭の輪は、まるで聖書に出てくる"天使"のような風貌。
こいつが…レベル4…?
「ッ…!」
額にAKUMAの象徴である星型のペンタクル模様を付けたその顔は、コムイだけを見ている。
AKUMAが狙ってんのはヘブラスカじゃない、コムイだ。
そう悟ると同時に、コムイの前に立って即席の武器を構えていた。
同じに武器を構えたユウの背が、オレの背に当たる。
「下がってていいんだぜ」
「またまた」
いつもみたく素っ気なく言ってくるユウに、ヘラと笑って返す。
そんなこと言って、ユウだってその手に握ってる刀はただの日本刀だろ。
オレもユウもイノセンスを今は所持していない。
そんな状態で一人でAKUMAと戦り合おうなんて、いくらユウでも無茶だって。
それに──
「こればっかりは譲れねぇさ…っ」
こいつは一度ぶちのめさなきゃ、オレの腹の虫が治まんねぇんだよ。
「またまた♪」
まるでオレを真似るように、レベル4が人間を模した顔で笑う。
それは挑発しているかのようだった。
「神田くん!ラビ!!」
「出てくんなよコムイ…!」
「お前は其処にいろ」
コムイの声が背後から届く。
同時に、真っ白な天使のようなAKUMAが一気にオレ達に向かって降下した。